セミナー講師インタビュー

東京大学 大学院 松田先生顔写真工学系研究科
建築学専攻准教授
博士(工学)、一級建築士
松田 雄二氏

松田准教授は、視覚障害者の歩行環境、重度重複障害者の地域環境、福祉施設の計画など、幅広くフィールドワーク、ワークショップを実践され、これからの建築計画学を担う研究者として、とても注目されています。
今年、4月に施行された「障害者差別解消法」に先駆け、2020年オリンピック・パラリンピック競技大会に向けてアクセシビリティ協議会の作業部会のメンバーでもある視点からお話を伺いました。

【バリアフリーからユニバーサルデザインへ】

「バリアフリー」は、もともとアメリカで障害者の人権に関わることとして1970年代に始まり、日本でも福祉と言う観点から2000年から交通バリアフリー法が施行され、浸透してきた歴史があります。
一方、教育者でもあり設計者であるロン・メイス博士は、ただ単にバリアを無くすということだけではなく、「公平性」「自由度」「簡単」「明確さ」「安全性」「持続性」「空間性」という7つの原則を世界中に戦略的に呼びかけ、「ユニバーサルデザイン」を提唱していきました。 製品そのものだけでなく、生活環境や、コミュニケーションなど、さまざまな場面に幅広く取り入れられる「ユニバーサルデザイン」は、ポジティブな指針、誰も排除しない、みんながハッピーになれる考え方であり、デザイナーに対しても「この指針で作ればあなたのものが売れる」というメッセージが込められていたため、積極的にユニバーサルデザインに取り組みまれました。
日本でも、川内美彦氏の著書「バリアフリーへの問いかけ」(2001年)、「ユニバーサルデザインの仕組みつくり」(2007年)の中にもあるように、バリアがあることを前提にした思想ではなく、社会の形であり、考え方であり、同じ環境を共有できる仕組みであるユニバーサルデザインが、徐々に広まっています。

このような流れから、大規模な障がい当事者参加が行われた稀有な事例として、中部国際空港、羽田空港国際線ターミナルビル、新千歳国際線ターミナルビル等で行われた、バリアフリーを検証し、改良、改善を繰り返し、効果的にアクセシブルな空間を作る取り込みがあります。 空港は国家プロジェクトであり、広い空間で、24時間体制で人的対応を得られやすいという、ユニバーサルデザインを取り入れやすい環境だったということもありました。
自治体レベルの例としては、私は大田ユニバーサルデザイン区民推進会議の委員を担当していますが、区民・ボランティア・外国人が参加し、ユニバーサルデザインのワークショップを実施し、大変評価が高かったです。
また、劇場・競技場などの観覧席を持つ施設も障害者のニーズに対応した例も多くあります。
設計者側も当事者の参加によって、幅広いユーザーの立場になって施工するようになり、質の維持と向上に大変有効に働いています。
国の指針だけでなく、下からのボトムアップで、とても多様性に富んだ豊かなものになってきたと言えるでしょう。

【オリンピック・パラリンピックへ向けての指針】

2020年の東京開催に向けて注目が高まっているオリンピック・パラリンピックですが、2003年にアクセシビリティ基準ができて以来、大会の度に「アクセシビリティガイド」が改訂されています。
情報や社会的交流、教育、まちづくりには、インクルーシブデザインやアクセシビリティが重要な要素となっています。
今までのオリンピック・パラリンピックは、このアクセシビリティガイドが基準になり、施設設計・まちづくり・大会運営等が行われてきました。東京にはすでに成熟された街であるが故の課題も多くありますが、ガイドラインに沿って高齢者・障がい者・海外からの来日客に対応することができれば、日常のアクセシビリティを底上げし、向上させられるいい機会だと思います。
この課題に対し、長期的なビジョンでまちを変えていく大いなるチャンスが2020年だと思います。

【未来に向けての取り組みが進んでいる】

IPC(国際パラリンピック委員会)のアクセシビリティガイドを参考にすれば、企業の直接的な収益に繋がり、ビジネスチャンスとなります。例えば、文字の読めない情報障害者を考慮した情報の伝え方を行うことで、来日観光客のアクセスも向上します。
御茶ノ水駅では、エレベーターやエスカレーターの位置を改修し、ホームとのアクセスを良くしようとしています。
コンビニの商品の陳列の仕方を変えて、よりユーザーが使いやすい工夫がされるようになったり、競技施設なども使いやすく改善され、2020年に向けてだけでなく、将来に向けての取り組みが進んでいます。

このような取組は、地方都市にも反映されていくはずだと思います。
そのキーワードは「観光」でしょう。地方のアクセシビリティを整えれば、外国人観光客の集客力が向上し、変わっていけると思います。
意識の高い顧客だけを相手にするという方法もありだと思います。ひとつの業種の中でいち早くアクセシビリティに重点的に取り組むことは、同業他社に勝ち残る方法ともいえます。情報のアクセシビリティの多くはITで解決できますし、建物や施設についても今あるものを見直してアクセシブルにすることで、勝ち残れると思います。
少子化が進み、ますます超高齢化社会に突入している今、公共機関だけでなく、民間レベルでのアクセスビリティの視点が大きな社会変革につながっていくことと思います。
アクセシビリティを改善することは、企業の収益に直結していけることだと思っています。

【障害者差別解消法(2016年4月制定)について】

差別を作り出している社会を考えていかなければいけないと思います。
日本では差別という考え方を、福祉の観点から捉えてしまったと思います。そのため、少数のかわいそうな人に対する保護という捉え方になってしまいました。
世の中には、いろいろな人がいます。障害者だけを対象とするのではなく、欧米のように権利の問題だと考えると低所得者やシングルファザー、シングルマザー、ベビーカーを押している人なども含まれることになります。そのような人たちが、どうすれば人間らしい暮らしをおくれるか、そのための方法をどう考えるかということが根底にあると思います。
権利をどう保証するのかということを考えなくていけない、そこで差別が生じています。社会の豊かさを担保するということは、どういうことなのかということを考えることが必要です。
いろいろな人と共有するということを丁寧に考えていくと自ずと豊かな社会環境を整えていくことになります。
そのようなことを戦略的に掘り下げていくと企業戦略としての付加価値にもつながり、新しい世界をつくるきっかけになっていくと思います。 そこがまさにユニバーサルデザインであり、インクルーシブデザインだと思います。
市場には、そのニーズがあります。企業経営者も今後の戦略を考える上で、ユニバーサルデザインやインクルーシブデザインを取り入れていって欲しいと思います。