東北大学大学院環境科学研究科

東北大学大学院 古川准教授写真

古川柳蔵准教授

 

心豊かなライフスタイルデザインの創出

豊かさは制約の裏返し

 

ライフスタイルデザインや90歳ヒアリングの中にはなかった、リードユーザの視点から学んでイノベーションを起こすという視点に着目し、プロジェクトの一環としてインクルーシブデザインワークショップを活用していただきました。リードユーザから想像できるライフスタイルデザインについて古川准教授にお話をきかせていただきました。
※ライフスタイルデザインの手法の一つ「90歳ヒアリング」が2013年グットデザイン賞を受賞しました

 

Q.はじめに現在の研究についてお聞かせください
バックキャスト思考で新しいライフスタイルをデザインし、それに必要な技術をイノベーションするという研究を行ってきました。その視点からすると、ライフスタイルデザインを描くことはとても難しく、スキルが必要です。ある程度のトレーニングを重ねないとライフスタイルを描くことができません。トレーニングを行えばライフスタイルがどういうものかということがわかってきます。
とは言え、既に1500?2000個のライフスタイルを描いていると、だんだんアイディアが枯渇してきます。そこでまず登場したのが「90歳ヒアリング」。ライフスタイルは制約を受けると外部の自然環境に影響して最適化されます。山の中に住んでいたら山の中に生き残るライフスタイルが定着するし、海沿いであれば魚がたっぷりとれる海沿いにあったライフスタイルが定着する。自然環境が異なると、違うライフスタイルが存在し、自然環境が同じだと同じライフスタイルが存在します。
ライフスタイルデザインといっても、「心豊かなライフスタイル」をデザインするということに挑戦していて、我慢ではなく、制約がかかるけれど心豊かになる方法探しをしています。
戦前という環境負荷が低く、ある程度制約がかかる中での最適なライフスタイルを調査するということで90歳ヒアリングを始めました。さまざまなアイディアが出てきて、未来でもちょっとアレンジすれば通用する、持続可能なライフスタイルを戦前の暮らしから学ぶことができました。現在、日本全国で90歳ヒアリングを行っており、計260人以上のヒアリングを継続して行っています。

Q.インクルーシブデザインを知ったきっかけはなんですか?
SEMSaTセミナー(東北大学大学院環境科学研究科の石田秀輝教授の行っている対話型セミナー)でインクルーシブデザイン・ソリューションズ代表の井坂さんに登壇していただいたことがきっかけです。その際に、はじめて講演を聞き、「インクルーシブデザインとは」ということを知りました。
講演を聞いた感想は「なるほどなぁ」と腑に落ちる感じでした。自分たちに無い新しい視点を障がい者が持っていて、その視点を使ってイノベーションを起こすということは新しいことだなと思ったのがはじめの印象です。その後、実際にインクルーシブデザインワークショップを体験して、徐々にすごさを感じていきました。

Q.実際にインクルーシブデザインワークショップを体験した感想は?道端にある看板に視覚障がいユーザがぶつかってしまう
一緒に街歩きを体験しましたが、自分が気づかなかった世界が障がい者の中に広がっていることに気づきました。
具体的には、視覚障がい者が街を歩いている時に自分の位置、空間の情報を知ろうとしていたこと。移動をしている時に、自分がどこを歩いているのか、屋根があるのかないのか、という位置や空間の情報を知ろうとしていることを全然知らず、衝撃でした。
もう一つは、白杖をついた視覚障がい者が歩いていると、ぶつからないように大げさに避けて通る人、携帯を見ながら歩いていてきづかずにぶつかってくる人のどちらかで、住みづらい街だと感じました。
何よりも、自分自身が視覚障がい者の視点から街を見ていなかったことに気がつきました。自分は健常者の視点で世の中を見ていて、視覚障がい者の視点というのは全然違ういうことを体感しました。
車イスユーザも同じ。電車に乗るのもあんなに不便なことだと始めて知りました。駅のホームでの対応など、本当に効率的なことをやっているのかと疑問に感じ、まだまだ不便な世の中であるという現状を認識しました。
そして、色んなアイディアがたくさん出てきたんです。これは使えると直感で思いました。
2000個くらいのライフスタイルを見てくると、だんだんと傾向が似てきて、つまらないなと思っていたのですが、まだまだ可能性があることを確信しました。まだ甘かったと痛感しました。

Q.ライフスタイルデザインとインクルーシブデザインの共通なところは?車イスを押しながらフィールドワーク
リードユーザの中でも、特に視覚障がいや車イスユーザは制約がある中、健常者と異なるライフスタイルを持っています。私たちは、制約を受けながらいかに心豊かに暮らすかということをリードユーザから学ぶことができます。
心豊かなライフスタイルを研究していると、豊かさは制約の裏返し。制約がないと豊かさが無い。何にもない所で豊かになるのは難しいけれど、何か制約があると豊かさを生みだすことができます。そういう手法を90歳の人が持っていて、そこから学びました。
豊かさというのは、快適や便利という言葉で表せると思っていましたが、「何かが使えない」「何かが不便だ」という裏に「不便だからこそ作る楽しみ」「不便だからこそそれを乗り越える楽しみ」があるということがわかりました。まさにインクルーシブデザインのリードユーザは制約があるなかで心豊かなライフスタイルを送っているのです。
彼らは、心の豊かさを実現する方法を知りつくしている。それをたくさん聞き出さないといけない。きっと、私たちの全く予想もつかない楽しみかたを知っているに違いないです。

リードユーザは楽しみを見出す天才

心の豊かさや楽しみを見つけ出す方法を現代人は忘れています。常に楽しみを与えられているため、楽しみの見つけだし方を知らないんです。リードユーザは制約があるため、見つけ出そうとする努力をしている。だから見つけ出す能力がまだ残っている。現代人は楽しい場所が作られていて、そこに行って楽しむしか方法を知らない。リードユーザは楽しみを見出す天才です。
全部好きなモノを買っていいと言われたら急に楽しくなくなる。1つだけといわれたら1つだけを選ぶプロセスが楽しい。楽しいことがあり過ぎても楽しくない。限られた中だからワクワクするんです。

Q.今後について教えてください
今後はぜひインクルーシブデザインをライフスタイルデザインに組みこんでいきたいと思っています。まずは、ライフスタイルデザイン×90歳ヒアリング×インクルーシブデザインをセットにしてまちづくりを行っていきたいです。
すでにいくつかの自治体で将来へのまちづくりがはじまろうとしています。自治体でライフスタイルをデザインしてそれに必要な事業や政策を考え、しかるべきものに自治体が支援してまちづくりを行っています。その際に、その地に昔から住んでいる知恵や仕組みを伝承して未来のまちを作るために90歳ヒアリングも行っていきます。そこに、地元の障がい者の視点を入れ、まちづくりに学べるような要素を見つけたいと考えています。90歳ヒアリングとインクルーシブデザインのセットで色んな自治体でまちづくりができると思います。
もう一つは企業を相手に商品開発。ライフスタイル提案型のイノベーションに興味のある企業へ向けて、ライフスタイルデザイン×90歳ヒアリング×インクルーシブデザインを行い、そこから新しい商品を見つけ、考えていきたいです。

Q.最後に一言
90歳ヒアリングやインクルーシブデザインの良さは、新しいイノベーションを起こせるということだけでなく、高齢者や障がい者たちが活躍できる場になっているという価値が非常に大きいと思います。それが魅力になり90歳ヒアリングはヒットしています。目的ではないですが、両方の良さがあるから成り立っているのではないかと思います。今後も、両方の魅力を企業や自治体で活用していきたいです。

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古川 柳蔵(東北大学大学院環境科学研究科准教授)
1972年、東京生まれ。専門は環境イノベーション。東京大学大学院工学系研究科終了後、民間シンクタンクを得て、2005年に東京大学大学院にて博士号取得。同年より現職。環境イノベーションプロセス研究、ライフスタイルデザイン・ネイチャー・テクノロジー創出手法、ソリューション手法の研究を行っている。
著作に。著作に『環境制約下におけるイノベーション』(東北大学出版会、2010年)、『キミが大人になる頃に。』(日刊工業新聞社、2010年)、『未来の働き方をデザインしよう』(日刊工業新聞社、2011年)、『90歳ヒアリングのすすめ』(日経BP社、2012年)等がある。